声明
G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合を受けて
―G7広島サミットで1.5℃への道筋を示し、
脱炭素を加速させる合意が求められる―
2023年4月17日
Climate Action Network Japan(CAN-Japan)
4月15~16日、札幌市で開催されていたG7気候・エネルギー・環境大臣会合はコミュニケ(合意文書)を取りまとめた。本会合での合意内容は、5月19~21日に開催されるG7広島サミットでの環境・エネルギー分野における合意に向けた試金石となる。
3月にIPCCが発表した第6次評価報告書の統合報告書では、今すぐ、でき得る限りの気候変動対策を講じる必要があるという科学からの警告がなされ、またロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、化石燃料依存からの脱却やクリーンエネルギーへの公正な移行の加速に向けた具体策に合意できるかが焦点の一つであった。
気候変動・エネルギー分野では、2030年までの洋上風力発電、太陽光発電の導入目標や具体策が明記された。また、排出削減対策の講じられてない化石燃料のフェーズアウトを加速することにG7として初めて言及した。さらに、排出削減対策の講じられていない石炭火力発電所の新規建設を終了させる必要性も盛り込まれた。一方で、昨年のG7首脳コミュニケで示された、2035年までに電力部門の全部または大宗を脱炭素化する約束は「再確認する」と述べるに留まり、「電力部門全ての脱炭素化」へと強化するには至らなかった。さらに、一定の条件のもとでガス部門への投資を許容し、イギリスやフランスが求めたとされる石炭火力発電の全廃時期の明示は見送られる内容となった。
昨年の合意より前進はあったものの、石炭火力、ガス、原子力などの既存の産業政策を温存する道を残した。G7合意がCOP合意へと影響を与えることも多く、今秋のCOP28での野心的な合意形成を弱めてしまう恐れがある。
議長国として気候変動対策の加速に向けた議論のリードを期待されていた日本は、石炭火力の全廃時期の明記や電気自動車(EV)導入に消極的であったと報じられている。
また今回、日本政府が合意へ盛り込むことに注力したとされる、水素とその派生物(アンモニア等)の電力部門での利用は、1.5℃の道筋と2035年電力部門の脱炭素化に整合し、NOxやN2Oの排出が回避された場合としてコミュニケに盛り込まれた。ただし、日本政府が推進する火力発電への水素・アンモニア混焼は、排出削減効果が小さく1.5℃への道筋にも整合しないため、合意内容をもって推奨されるものではない。
来る5月のG7広島サミットでは、G7がパリ協定1.5℃目標の達成に向けた国際協調をリードしていくような、より野心的な合意が求められる。
議長国である日本は化石燃料を延命する新技術に頼る合意形成に注力するべきではない。パリ協定1.5℃目標の達成に向け、決定的に重要な10年に何をすべきか、石炭火力の全廃時期も含めた化石燃料フェーズアウトと再生可能エネルギーへの公正な移行への道筋を具体的に示す議論を主導していくことに期待する。
CAN-Japanメンバー団体からのコメント
小池宏隆(グリーンピース・ジャパン シニア・キャンペーン渉外担当):
「札幌における気候・エネルギー・環境大臣会合において、再生可能エネルギー導入目標G7はCO2排出量削減に向けてわずかに前進しましたが、目指すべき野心からは程遠い結果でした。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から、1.5度目標からのオーバーシュートについて明確な警告が出されているにもかかわらず、G7は、排出量の大幅削減、期限付きのすべての化石燃料の段階的廃止、そして脱炭素社会への移行を加速させるための野心的な行動計画を打ち出すことができませんでした。
特に自動車については、2035年までに2000年比で、G7諸国の自動車から排出されるCO2を半減することにもコミットできず、現在の危機に対応するには低い野心と言わざるを得ません。さらに多くの国が期限を明記したゼロエミッション車(ZEV)販売目標の設定を支持する中、日本は当初より消極的な姿勢を見せており、結局、具体的な数値目標は採択されることはありませんでした。大手自動車メーカーをもつ国々が世界の脱炭素化に向けてリーダーシップを発揮できなかったことは非常に残念です。<G7, be ambitious(G7よ大志を抱け)>の精神で、広島における首脳サミットまでに、期限付き内燃機関(ICE)の廃止と、ZEVの導入に向けた野心的な目標を岸田首相のリーダーシップでもって設定すべきです。」
内田隆(市民気候ロビージャパン 副代表):
「合意文書の第52項『カーボン市場とカーボンプライシング』において、『ネットゼロへの移行促進と費用効果高い削減手段と持続可能な経済成長を実現する為の主要手段としてカーボンプライシング』を掲げています。『IPCC報告書にある通り、低所得世帯を支援するために炭素税または排出量取引からの収入を使用することにより、炭素価格設定手段の公平性と分配への影響に対処できる』と合意文書内でも、国民への直接還元(=キャッシュバック)の重要性が言及されています。
例として、カナダではカーボンプライシング収入の100%をカーボンプライシング信託基金にて運用し毎月各家庭に還元されています。オンタリオ州では月186ドルに昇ります。大半の家庭ではエネルギー価格上昇分以上の還元を受けています。
カーボンプライシングによる収入(=予算)を国民に直接還元する手段(=カーボンキャッシュバック)を改めて構築する様に改定されることを、このG7首脳会合を契機に、日本政府には期待しております。」
浅岡美恵(気候ネットワーク 代表):
「札幌市での気候・エネルギー・環境大臣会合では、G7として初めて、石炭だけではなく、排出削減対策の講じられてない化石燃料のフェーズアウトの加速に言及するなど、昨年の合意からの前進がありました。一方で、各国が石炭火力、ガス、原子力などを温存する道を残したことを懸念しています。また、今回のコミュニケには水素とその派生物(アンモニア等)の電力部門での利用について盛り込まれましたが、日本政府が推進する火力発電への水素・アンモニア混焼技術は、排出削減効果が小さく1.5℃への道筋にも整合しません。コミュニケの内容をもって、G7がこれら「新技術」を推進したと解釈すべきではありません。
日本はパリ協定1.5℃目標の達成に向け、石炭火力の全廃時期も含めた化石燃料フェーズアウトと再生可能エネルギーへの公正な移行に向けて具体的な年限や目標を伴った自らのロードマップを明らかにして議論を進めることが、気候危機におけるG7広島サミットでの議長国としての責務と考えます。」
伊与田昌慶(国際環境NGO 350.org Japan チームリーダー代理):
「G7札幌大臣会合において太陽光と風力の再エネ導入数値目標が合意され、パリ協定1.5℃目標実現への手段として位置づけられたことは前進です。しかし、気候危機の緊急性に十分に対応したものとはいえません。グリーンウォッシュであるアンモニア・水素の化石燃料への混焼発電、実現性が不確かなCCS、CCUS、DACCSといった革新的技術や原子力発電を列挙して、最優先で集中的に進めるべき省エネルギーや、再生可能エネルギー100%への公正な移行の必要性を見えにくくしています。とりわけ、国内石炭火力発電のフェーズアウトの期限を示すことに日本政府が抵抗したのは、日本抜きでの『G6』なら、もっと良い合意ができたはずだということを象徴しています。国際的な化石燃料事業への公的資金支援をただちに全面的にとりやめることも重要です。
5月のG7広島サミットに向けて、岸田文雄首相は、最新のIPCC報告の科学に向き合い、石炭を含む全ての化石燃料からの脱却のロードマップを示さなければなりません。」
早川光俊(地球環境市民会議(CASA)専務理事):
「IPCC第6次評価報告書統合報告書は、平均気温の上昇が、地球全体に広範かつ急速な変化を引き起こしているとし、温室効果ガスの寄与は国家間及び国内、個人間で不均等であり、その影響は寄与がもっとも少ない脆弱なコミュニティが不均衡に影響を受けているとしています。
G7諸国は、もっとも多く温室効果ガスを排出している国々であり、その責任は重大です。
いまG7諸国に求められているのは、COP28までに自国の削減目標(NDC)を大幅に引き上げること、排出削減対策の講じられていない石炭火力や化石燃料火力だけでなく、すべての石炭火力や化石燃料火力をできるだけ早い時期に全廃することに合意することです。しかし、石炭火力や化石燃料火の全廃時期については合意されず、NDCについては、『2030 年 NDC 目標を再検討及び強化し』とはされてはいますが、具体的にG7諸国がNDCを強化するかどうかは不明です。今回のコミュニケ(合意文書)は、極めて不十分な内容と言わざるを得ません。
一方、『ロス&ダメージ基金』については、『積極的に取り組む』とされたことは評価できます。
COP28において、G7諸国が『ロス&ダメージ基金』に積極的に関与し、資金提供を約束することを期待します」
以上
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