プレスリリース

IPCC 第6次評価報告書(第二作業部会)の発表を受けて
―日本は早急に温室効果ガス削減目標引き上げと、関連政策の見直しを―

2022年3月2日
Climate Action Network Japan(CAN-Japan)

 2022年2月28日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、第6次評価報告書の第二作業部会(影響・適応・脆弱性)の報告書を発表した。

 世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立されたIPCCは、1990年から5〜7年ごとに評価報告書を発表している。その科学的知見は、国連交渉を通して各国の気候変動政策に影響を与えてきた。

 このたび発表された報告書では、人為的な気候変動は、自然と人間に対して既に広範囲の悪影響や「損失と損害(Losses and Damages)」を引き起こし、最も脆弱な人々やシステムに影響を与えてきたと指摘した。温暖化が進めば悪影響や損失と損害は拡大し、気温上昇が1.5℃を超える場合、一部の影響は温暖化が低減されても不可逆的になると予測した。気候変動の影響を軽減する適応にも限界があり、温暖化の進行により避けがたい損失と損害が出ることも指摘した。
 分析は、気候にレジリエントな開発(Climate Resilient Development)に向けた行動として、温室効果ガス排出量を急速に減少させ、地球温暖化を1.5℃以内に抑えよと警告している。また、包括的なガバナンス、人的・技術的資源、情報、能力、資金により可能になるとしている。
 同報告書は最後に、「気候変動は人間の幸福と地球の健康への脅威である。世界が適応と緩和をこれ以上遅らせれば、すべての人にとって住みやすい持続可能な未来を築く絶好の機会は失われてしまうだろう」と呼びかけている。

 世界が1.5℃を目指し、2030年までの温室効果ガス排出削減を強化する緊急性・必要性があらためて確認されたと言える。この呼びかけを受け止め、気候危機を回避するため、CAN-Japanは日本において以下の取り組みが必要であると考える。

 国内においては、2030年排出削減目標を現行の46%(50%の高みを目指す)から引き上げ、かつ実効性のある施策の策定と実行が求められる。具体的には、『ゼロエミッション火力』に期待しながら石炭火力発電を利用し続ける現行の方針を転換し、石炭火力発電全廃の時期を明確にすることや、再生可能エネルギーの導入目標引き上げ、省エネルギーの徹底、公正な移行等に取り組む政治的意思を示し、各主体の実践を促すための施策を早急に検討・導入すること等が挙げられる。目標の引き上げにあたっては、先般のCOP26で合意された2022年末までのNDCの見直しと再提出の要請に間に合うよう、早急に作業に取り掛かることが必要である。

 同時に、気候変動による悪影響を受けやすく、安全で健康な暮らしを脅かされている国や人々がそのレジリエンスを高め、持続可能な社会を構築することに資する海外支援が求められる。COP26では、気候変動の悪影響による被害を最小限に抑えるために先進国からの資金提供を増額することが合意された。日本には、アジア諸国の脱炭素化支援と銘打って『ゼロエミッション火力』への支援をおこなう方針を転換するとともに、気候変動への適応および損失と損害へ対処するための資金を増額することが求められる。

CAN-Japanメンバー団体からのコメント

地球環境市民会議(CASA)専務理事 早川光俊:
気候危機は容赦なく進行し、いまや地球上のどこに住んでいても、人々は、気候変動の激甚化による影響にさらされています。IPCCの最新の報告書は、私たちがパリ協定の1.5℃目標達成を目指す理由、カーボンニュートラルを実現するため必要な政策や対策を総動員しなければならない理由を明らかにしています。世界のリーダーたちは、1.5℃目標を実現するために、最新の科学の知見に基づき、いまだかつてない規模でシステムチェンジを、必要とされるスピードで、確実に行うことが求められています。
日本は、2021年10月に、エネルギー基本計画を改定し、それに基づいてNDC(2030年の温室効果ガス排出削減目標)を改定して国連に提出したばかりですが、その計画は、2030年時点で、石炭火力発電の占める割合が19%であるとしており、パリ協定の1.5℃目標と全く整合していません。日本は、国内の石炭火力発電をフェーズアウトする時期を明確にすることを含め、具体的な政策や対策の検討を開始し、NDCを引き上げて、1.5℃目標に沿う2030年目標を提出することが必要です。そうした努力に加えて、累積排出量で世界第6位という大排出国として、適応やロス&ダメージに対処するため、途上国に対する資金供与が日本に求められるのは言うまでもありません。

以上

参考)この報告書は、IPCCによる「第6次評価報告書」の一部となる第二作業部会(影響・適応・脆弱性)の報告書である。2021年8月9日に発表された第一作業部会(科学的根拠)に続く報告書で、2022年中に第三作業部会(緩和策)報告書、統合報告書が発表される予定である。

PDF版ダウンロード

【プレスリリース】 IPCC 第6次評価報告書(第二作業部会)の発表を受けて ―日本は早急に温室効果ガス削減目標引き上げと、関連政策の見直しを―(2022年3月2日)

お問い合せ先

Climate Action Network Japan(CAN-Japan)事務局
〒604-8124京都府京都市中京区帯屋町574番地高倉ビル305気候ネットワーク内
TEL: 075-254-1011/FAX: 075-254-1012
ウェブサイト: https://www.can-japan.org
E-mail: secretariat@can-japan.org