7月21日に「第46回総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」において、エネルギー基本計画改正案の素案が公表され、26日には、環境省と経産省が合同で気候変動対策を議論する「中長期の気候変動対策検討小委員会(産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会地球温暖化対策検討WG合同会合)部会」にて地球温暖化対策計画の素案が示された。
エネルギー起源のCO2が温室効果ガスの約9割を占める日本においては、温暖化対策=エネルギー対策である。今回、経産省から示された2030年のエネルギーミックスを元にした環境省の地球温暖化対策計画案には、下記の課題があるとWWFジャパンは考える。
第6次エネルギー基本計画改正案の素案について
2030年の電源構成では、再エネ36〜38%、原子力20〜22%、石炭19%、LNG20%、石油等2%、水素・アンモニア1%と示されたが、これで2030年の削減目標46%(2013年比)を実現するには、現実味が乏しい。
再エネ38%はこれまで通りの積み上げ方式で、日本の再エネのポテンシャルを過小評価している。WWFジャパンが2020年12月に発表した「脱炭素化に向けた2050年ゼロシナリオ」をはじめ、いくつかの機関が出した試算において、再エネの大幅な拡大が可能であることが示されている。再エネの主力となる風力発電の業界団体からは、野心的な数値目標があってこそ民間投資がついてくるとの指摘がされており、また、多くの企業や自治体などが再エネ導入の拡大を切望し、政府の再エネ目標を40%~50%へと引き上げることを求めている。今回の案は、その可能性を抑圧する目標であると言わざるを得ない。
また原発を20%以上見込むことで、非化石電源比率を従来計画より引き上げたが、現状10基未満、電源比率にして4%程度しか稼働していない中で、これは非現実的な見込みであることは周知の事実である。もしこれが達成されない場合にはどうするのかも示されていない。
一方で国際的に批判され続けている石炭火力は、非効率はフェードアウトするとしつつも、なお19%を維持していく事が示された。高効率であってもガス火力の2倍近くのCO2を排出する石炭火発が世界的に廃止される方向のなか、この方針を、11月に行われるCOP26を前に、2050年ゼロに向かう2030年の計画、すなわちNDCとして提出しても日本の真剣度が疑われる。
さらに、現時点で全く商業化されておらず、コストの見通しもないアンモニア火力などを見込んで将来的にも火力発電に依存し続ける姿勢が示されている。これでは2050年脱炭素化へつなぐ2030年の日本のエネルギー計画としては非常に心もとない。
地球温暖化対策計画の素案について
そのエネルギー基本計画案を軸にした地球温暖化対策計画には以下の3つの課題がある。
1. 2030年の排出削減を家庭部門で66%、業務部門で約50%としているが、いずれも約7割が電力由来の排出であり、電力供給インフラの脱炭素化がカギを握る。すなわちエネルギー転換部門の責任が大きいにも関わらず、家庭や業務に責任が負わされている。これでは効果的な対策が打ちにくい。
2. エネルギー転換部門に対しては、従来の電気事業者の自主的な電源係数目標(0.37kg-CO2/kWh)、 高度化法の非化石電源比率44%以上の追加の施策がない。国の削減目標が26%から46%削減に変わっているにも関わらず呼応していない。
3. あと9年で大幅削減するには、省エネルギーが重要だが、省エネルギーを推進する追加の施策がない。排出量取引制度や炭素税についての記入はあるが、従来通り「専門的・技術的な議論を進める」にとどまっている。「成長に資するカーボンプライシングに躊躇なく取り組む」と菅首相の宣言に沿って、早期にカーボンプライシング政策を導入するべきである。
全体として国民の行動変容や産業界の自主行動計画に相変わらず依存しており、政策が乏しすぎる。このままでは、2030年46%、さらに50%の高みを目指すには不十分であることは明らかだ。特に再生可能エネルギーの拡充による電源の早期の脱炭素化は、企業が国際競争力を確保していく上でも喫緊の課題である。世界の機関投資家が、脱炭素化に対する具体的な計画を持っているかなどを企業に投資する際の判断基準とするようになり、グローバル企業が再エネ100%経営を実現しようと必死に導入を進める中、政策による加速的な後押しがなければ、日本企業の国際競争力を弱める結果となることが強く懸念される。
一方で、今回の温暖化対策計画は、はじめて1.5度を目指すことを明示し、バックキャスティングの考え方が明確に表された。また、新型コロナウィルスからのグリーンリカバリーとしても重要となる「脱炭素に向けた攻めの業態転換及びそれに伴う失業なき労働移動の支援などを大胆に実行」といった産業転換や雇用の意向の重要性も明示されていることは評価できる。従来の温暖化対策計画と一線を画した新たなフェーズに入ったことを感じさせる。
電気事業分野について、「見直された排出係数目標の達成ができないと判断される場合には、施策の強化」といった表現もあるが、新たなページに入った温暖化対策は、国内対策もいつまでも自主行動にゆだねるのではなく、政策的対応に大胆に踏み込むべきである。日本政府が先進諸外国に比肩し得る中長期での再エネ目標(2030年に50%以上)、そして石炭フェーズアウト期限(2030年)を明示することが、産業部門やエネルギー転換部門に予見性を与え、脱炭素化の実現と公正な移行の両立を可能とする不可欠な要素である。
また、従来環境省と経産省で別々に議論されていた温暖化対策とエネルギー基本計画が、より連携して議論されるようにはなってきた。まだ道半ばではあるが、方向性としては、新たなフェーズに入っている。その歩みをもっと加速させ、省庁横断で政策的措置を大胆に導入し、日本の将来の国際競争力の源泉としていくべきである。