日本政府に温室効果ガス排出削減目標の引き上げを求めます
国民的議論を経て国別約束(NDC)再提出を
2020年1月23日(木)
Climate Action Network Japan(CAN-Japan)
世界120カ国以上の1300以上の団体からなる気候変動NGOのネットワーク「Climate Action Network(CAN)」の日本拠点「CAN-Japan」は、日本政府に対して、国民的議論を行い、現行の温室効果ガス排出削減目標を見直し、「2030年までに1990年比で少なくとも45-50%削減」に引き上げて、COP26までに国連に再提出することを求めます。
現行の「2030年までに2013年比で26%削減(1990年比で18%削減)」という政府目標の水準は、気候変動に関するパリ協定がめざす1.5〜2℃未満という目標に整合しないと科学者は指摘しています(CAT,2019[i])。すべての国が日本の目標並みの努力しかしないのであれば、気温上昇は3〜4℃になるとも分析されています。工業化前から約1℃の地球平均気温上昇で、すでに日本国内でも年間千人以上が死亡し、年間数兆円にのぼる経済損失が発生しています(GCRI,2019[ii])。3〜4℃上昇に達するような低水準の目標を据え置くことは、現在世代はもちろん、将来世代に対する重大な人権侵害です。このため、国際社会は、2℃目標でも不十分だとして、より野心的な「1.5℃未満」の目標に向けて対策強化を進めようとしています。
日本がCOP26までに目標を引き上げることが必要な理由は3つあります。
第1に、科学的知見に基づく緊急性です。COP25でもIPCCの科学者たちが訴えたように、気温上昇を1.5℃未満に抑えるためには、残り10年が勝負です。対策をとらなければ、あと約10年で気温上昇は1.5℃を突破し、さらなる危険な気温上昇を招く恐れがあります。このため、2030年までの排出削減努力を大幅に引き上げなければなりません。そのためには、今すぐそれを可能にする野心的な高い目標を掲げ、達成に必要な対策強化に着手する必要があります。つまり、COP26までの目標引き上げが必要です。
第2に、国際社会の要請です。パリ協定とCOP決定に基づき、各国は排出削減目標を含む国別約束(NDC)を2020年に国連に提出することが求められています。市民社会だけでなく、アントニオ・グテーレス国連事務総長やIPCCの科学者、気候変動影響に特に脆弱な国々の首脳、グレタ・トゥーンベリさんを始めとする世界中の子どもや若者たちも、これ以上の気候危機の深刻化を避けるため、各国政府に対して、排出削減目標の2020年中の引き上げを強く求めています。
第3に、大排出国である先進国・日本の責任です。昨年9月に開催された国連気候行動サミットや、12月に開催された国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)を経て、これまでに2020年中の目標の強化・提出を予定する国は、108カ国に増えました。EUも排出削減目標を「40%削減」から「55%削減」へと引き上げて遅くともCOP26までに提出する方向で検討を進めています。パリ協定にある「気候正義」に立脚し、排出量が世界5位の先進国で、責任も大きく、対策の能力もある日本こそ、最も脆弱な状況に置かれた人々のため、ただちに行動すべきです。
気候危機のこれ以上の深刻化を防ぐため、次の事項を安倍晋三総理大臣、茂木敏充外務大臣、梶山弘志経済産業大臣、小泉進次郎環境大臣に求めます。
- 日本政府として、現行の国別約束(NDC)にある2030年の排出削減目標(2013年比で年26%削減=1990年比で18%削減)が、1.5〜2℃目標の達成に不十分な水準であることを受け止め、国民的議論を実施し、この目標を「2030年までに1990年比で少なくとも45-50%削減」に引き上げ、2020年11月のCOP26グラスゴー会議までに国連に再提出すること。
- そのために政府における気候変動対策の優先順位を引き上げるとともに、省庁横断的な検討プロセスを政府内にただちに立ち上げるとともに、国民的議論を開始するプロセスをつくること。このプロセスでは、すでに気候災害に苦しんでいる日本の市民社会の幅広い参加を確保し、利益相反である化石燃料多消費型産業(火力発電産業界、鉄鋼業界など)の影響を排する必要があります。
- 排出削減目標の見直しと連動して、地球温暖化対策計画及びエネルギー基本計画の改定を進めること。その中で、原子力と石炭を重視する従来の方針を撤回するとともに、パリ協定1.5℃目標に必要な2050年カーボン・ニュートラルを打ち出し、省エネと持続可能な再エネ100%への転換を図る必要があります。並行して、化石燃料への補助金や減税などの化石燃料優遇策をやめ、カーボン・プライシングを強化して省エネルギーを徹底するべきです。
- これらと並行して、G20サミットなどの機会を通じて、米国や中国といった大排出国の政府に対して、2030年に向けた排出削減目標の引き上げを2020年中に行うよう働きかける気候変動外交を展開すること。また、途上国政府における排出削減目標の引き上げを促進するため、キャパシティ・ビルディングなどの途上国支援に注力すること。
以上
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[i] https://climateactiontracker.org/countries/japan/
[ii] https://germanwatch.org/en/17307