プレスリリース: 安倍政権は、温暖化対策の貧弱な目標案によって生命、資金、雇用を失おうとしている
2015年6月8日(月)-ドイツ、エルマウ: ドイツで開催中のG7サミットにおいて発表された新しい分析によれば、主要経済国は温暖化対策の新目標案によって極めて大きな便益を得ることがわかった。しかし、出遅れている日本とカナダは、貧弱な温暖化対策の計画によって、この潮流に逆行している。
今日8日、ニュー・クライメート・インスティテュート(New Climate Institute)が発表した報告によれば、日本が2050年までに再生可能エネルギー100%に向かう経路に沿う計画をもつことで、きれいな空気の中で仕事ができることによる健康な労働力の確保、再エネ部門における新しい雇用の急増、巨額の化石燃料輸入費の削減が可能となる。これらの3つの利益は、経済が低迷している現在の日本にとって、極めて必要なものである。
しかし、安倍政権の温暖化対策の国別目標案(約束草案:INDC)は、今年12月のパリにおける新しい世界の気候合意に向けた提案としては極めて不十分である。この低い目標案のままでは、日本は2030年までに、6万7000人の 潜在的な雇用を失い、年間250億米ドルのコスト削減をあきらめ、大気汚染によって毎年1万5000人の生命を失うことになる。
CAN-Japan(気候行動ネットワーク・ジャパン)のコーディネーターの平田仁子は、「我々は安倍総理に対し、この目標案を取り下げ、最初からやり直し、再エネのポテンシャルを活用し、適切な雇用を創出し、大気汚染による生命の危機から国民を救うというビジョンを打ち出すよう求める」、「市民もビジネス界も、さらなる行動を求めている。日本政府は、まさに今こそ、気候変動分野において失われたリーダーシップを取り戻す時だ」と話した。
現状の政策の影響予測と比較すると、日本のひどい目標案は、2030年までに、再エネ部門で追加的な雇用を創出することはできず、化石燃料輸入費の節減は僅か年間80億米ドルにとどまり、大気汚染による死者数を年間1500人減らせるにすぎない。これは、市民社会組織が求めている野心的な目標案の結果得られる相乗便益(コベネフィット)の10分の1以下である。
このような野心の低い目標案では、日本はアジアのライバルである中国への競争力を失うことは明らかである。昨年の米国と中国の画期的な二国間合意の際、日本の隣国である中国は2030年までの計画を明らかにした。中国は、この計画によって、500,000人の適切な新しい雇用を得て、大気汚染による死から年間10万人を救うことになるだろう。
この報告によれば、中国と同様、欧米のG7諸国も、温暖化対策を強化し、現在も進行中の化石燃料から再エネへの転換をさらに加速させることで、より多くの便益を確保することになる。
この報告書の執筆者である、ニュー・クライメート・インスティテュートのニコラス・ホーン(Niklas Höhne)は、「温暖化対策の相乗的な便益に関する今回の研究は、政府が国民のニーズを踏まえて排出削減目標案を公式化する際、目標案の野心の水準に大きな影響を与えうる」と話している。
日本同様、取り組みの遅れているカナダも、月曜の朝、G7サミットにおいて、同国の不十分な温暖化対策の目標案について説明した。カナダの目標案が2050年までに再エネ100%を実現することと整合的になるのなら、現行の案のケースと比較すると、救える生命はゆうに600%の増加となり、2030年までに得られる再エネ部門の雇用は60%増加するだろう。
CAN Canada(気候行動ネットワーク・カナダ)代表のルイズ・コモーは、「カナダが気候保護の責任を果たせないことで、長期間にわたってカナダ国民は被害を受けることになる。カナダ経済は汚い石油に過剰に依存し続けることになり、大気は必要な水準よりも汚染されたものになり、再エネ部門における持続可能な雇用は生まれない」と話している。
2015年はすべての国が気候変動の行動・約束を発表する最初の年になる。他国よりも良い目標案を掲げる国々もあるが、それは全体として、化石燃料の時代を終わらせて再エネの時代を始めるとともに、気候変動の影響に強い、
今回の報告書では、5つの主要経済国―日本、カナダ、EU、米国、中国―による温暖化対策の目標案は、全体として、2030年までに、年間11万5000人の生命を救い、年間410億米ドルのコストを削減し、再エネ100万人の雇用を生むことになるだろう。
これらの全ての政府が2050年までに再エネ100%の経路に沿う目標案を持てば、全体として、年間120万人の生命を救い、200万人以上の雇用を創出し、5140億米ドルものコストが節約できる。
関連情報
- 報告書「各国の温暖化対策で失われる便益の評価(原題”Assessing the missed benefits of countries’ national contributions”)」を発表したニュー・クライメート・インスティテュートは、研究や分析を通して、気候変動対策の強化や持続可能で気候変動の影響に強い開発を支援している。また、この報告書はCANインターナショナルとグローバル・コール・フォー・クライメート・アクション(GCCA)によって委託されたものである。
- CANは100ヶ国以上の900以上のNGOからなる世界的なネットワークで、政府や個人に対し、人為起源の気候変動を生態学的に持続可能な水準に抑えるための行動を促すため活動している。
- GCCAは70ヶ国以上の450以上の非営利組織からなる多様性あるネットワークで、気候変動を防ぎ、世界の安全を目指すという目標を共有している。GCCAは宗教、開発、科学、環境、ユース、労働者やその他の市民社会組織に対し、市民を動員し、世論を活発にして、早急な温暖化対策を支持するよう働きかけている。
- 報告書の全文はこちら。報告書の内容をわかりやすく示した図(インフォグラフィック)はこちら。
- 日本は、「2013年比で2030年までに26%削減」という政府原案を発表している。世界資源研究所(WRI)の分析によれば、日本の目標の水準は米国とEUと比べて遜色ないとは言えない。また、WRIはこの分析では、日本の目標案が「2005年比で2030年までに少なくとも28%削減」となれば、年間排出削減率がEUと米国と同じ水準になると指摘している。市民社会組織は、2005年比で40%の削減を求めている。
- 世界資源研究所(WRI)による、年間排出削減率に関する図(日本とカナダの目標案の削減率は、米国とEUより低いものになっている)
問い合わせ
*Ria Voorhaar, CAN International, +49 157 3173 5568, email:rvoorhaar@climatenetwork.org
*Christian Teriete, GCCA, +49 176 8050 7753, email:christian.teriete@tcktcktck.org