菅首相、2050年カーボン・ニュートラル目標を宣言
パリ協定1.5℃目標に整合する2030年目標の設定が急務
2020年10月27日(火)
Climate Action Network Japan(CAN-Japan)
10月26日、菅義偉首相は、所信表明演説の中で2050年までに日本の温室効果ガス排出量を全体としてゼロ、すなわち「カーボン・ニュートラル」にすることをめざすと表明しました。これまで政府は「2050年80%削減」を掲げていましたが、これを引き上げたものです。IPCCの科学的知見では、1.5℃未満のためには2050年頃までに世界のCO2排出を実質ゼロにする必要があると示されており、世界中で2050年実質ゼロを掲げる国や自治体、企業が広がりをみせている中、今回の政府の新目標や、石炭火力発電の抜本的見直しの意思表明は、遅まきながらではありますが、一歩前進と評価します。しかし、気候危機を抑止し、持続可能で公平な社会を築くには、今回の2050年目標や既存の対策では全く不十分であり、2030年目標の強化や具体的な対策強化に緊急に取り組むことが不可欠です。CAN-Japanは、改めて日本政府に以下の取り組みを進めるよう求めます。
- 「カーボン・ニュートラル」を前倒しで着実に達成するための具体的な政策手段の導入や進捗管理の体制整備を進めること。先進国であり、世界第5位の排出大国である日本は、世界全体での実質ゼロ実現に先だってこれを達成する責任と能力があるため、「遅くとも2050年までに実質ゼロをめざす」とすべきです。これを着実に達成するために、石炭火力発電所規制やカーボン・プライシングといった実効性のある政策を導入するとともに、開かれた進捗管理の体制を整備すべきです。なお、実質ゼロの計算においては、CO2の実際の排出分をゼロにすることを基本とすべきであって、不確実の大きい森林吸収源を過大に見積もったり、環境十全性を損なうやり方で排出量をオフセットしたりするような抜け穴をつくらないことが肝要です。
- 2030年の温室効果ガス排出削減目標を「1990年比で少なくとも45-50%程度削減」に引き上げ、COP26グラスゴー会議までに国連に提出する方向性を打ち出すこと。現行の国別約束(NDC)にある2030年の排出削減目標(2013年比で年26%削減=1990年比で18%削減)が、1.5℃目標の達成に不十分な水準であることを受け止め、これを大幅に引き上げる政治的意志を示すべきです。将来の2050年目標を引き上げながら直近の2030年目標を不十分な水準に止めることは、次世代に対策の責任を先送りすることに他ならないと言わねばなりません。
- 2030年の温室効果ガス排出削減目標や、エネルギー基本計画やエネルギーミックスの見直しに際しては、市民を含め、幅広い分野から透明性のある議論を行うこと。現在、政府の経済産業省総合資源エネルギー調査会基本政策分科会において、エネルギー基本計画及びエネルギーミックスの改定に向けた議論が行われています。化石燃料に強い利害関係を持つ産業の代表ではなく、気候危機の影響にさらされる幅広い市民を含めた国民的議論を行う必要があります。
- 原子力発電や不確実な「革新的技術」ではなく、省エネ、脱石炭・脱化石、再エネ100%への転換に政策資源を投入すること。菅首相は新しい2050年目標と同時に、原発政策を推進する方針と、カーボン・リサイクルなどの「革新的技術」を重視する意思を表明しました。しかし、革新的技術は技術的にも経済的にも未だ実現のめどがたっておらず、パリ協定1.5℃目標の達成に貢献できるような時間軸には間に合いません。原発は、事故リスクは言うまでもなく、コストも大きく、環境・社会的な悪影響の懸念も大きいものです。各研究では、省エネを徹底すれば、原発に頼ることなく、環境負荷の少ない再エネ100%へと移行できることが明らかにされています。持続可能な再エネ100%へと公正な移行(ジャスト・トランジション)を進めることに注力すべきです。
以上