日本の温暖化対策目標案(約束草案)は「2013年比で2030年までに26%削減」?

2015年4月30日、日本政府は約束草案検討ワーキンググループにて、2015年3月までの提出が求められていた2020年以降の温暖化対策の国別目標案(約束草案)の要綱案を発表しました。

政府が示したのは「2030年までに2013年比で26%削減」という案ですが、1990年比では18%に留まり、野心的な目標とは言いがたいものです。また、COP20リマ会議の合意で求められていた、「目標案がどのように公平といえるか?野心的といえるか?」や「目標案が気候変動枠組条約の目的の実現にどう寄与するか」などについては記載はありませんでした。

政府は6月にドイツで開催されるG7サミットにて目標案について発表する予定としていますが、国連に正式に提出する時期はまだ明らかにされていません。

 

表:日本政府の2020年以降の温暖化対策の国別目標案(約束草案)の要綱案のポイント

温室効果ガス
排出削減目標案
国内の排出削減・吸収量の確保により、2030年に2013年比26%削減
(2005年比25.4%削減、1990年比では18%削減)
基準年 2013年度比(併せて2005年度も登録)
目標年度・期間 目標年度:2030年度(実施期間:2021年4月1日~2031年3月31日)
対象範囲等 対象ガス:CO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6及びNF3
計画プロセス 要綱案に基づいて政府が原案をとりまとめ、パブリックコメントを行い、地球温暖化対策推進本部で決定し、国連(気候変動枠組条約事務局)に提出。
前提条件、方法論 二国間クレジット制度(JCM)は、削減目標積み上げの基礎としていないが、日本として獲得した海外の排出削減・吸収量は日本の削減としてカウントする。
(参考)目標がどのように公平で野心的なのか 記述なし
(参考)目標が気候変動枠組条約の目的の実現にどう寄与するか 記述なし

出典:政府の約束草案検討ワーキンググループ資料:「日本の約束草案要綱(案)」をもとにCAN-Japan作成

 

日本の目標案に対する、様々なリアクション

海外NGO・識者のリアクション

気候行動ネットワーク・インターナショナル(CAN-International)

世界100ヶ国の900団体からなる、気候変動問題に取り組むNGOの国際的なネットワーク組織。

日本が本日発表された「2013年比で温室効果ガス排出量を26%程度削減」という水準の目標案を提出すれば、気候変動問題における日本の地位は失墜してしまうでしょう。…意欲的な排出削減目標を打ち出すのではなく、基準年をずらすという奇策を用いて目標を実際よりも高く見せようとする意図は明らかです。国際社会は騙されません。

…しかし、まだ間に合います。…ドイツで6月に開催されるG7サミットに向けて、CANは、日本が「1990年比で40%以上削減」を目標として掲げることを求めます。このような目標を掲げることによってはじめて、気候問題における日本のリーダーシップは回復し、日本国民が求めている再生可能エネルギーへの投資を飛躍させることができるでしょう。

出典:Letter to Prime Minister Shinzo Abe – CAN responds to Japan’s draft INDC (April 30, 2015)

 

ジョン・プレスコット氏(一部抜粋)

イギリス副首相、筆頭国務長官を歴任。現在、野党党首に対する気候変動アドバイザーを務める。

…日本の温暖化目標は問題だ。26%削減というのは一見野心的に見えるが、2013年を基準年としていることが疑問を呼ぶ。2013年は2007年より後で日本で最も温室効果ガス排出量が多かった年であることを、我々は知っている。福島事故以降、原発稼働停止の穴を埋めるため石炭火力発電に回帰したからだ。一般的に用いられる1990年を基準年とすると、この目標ではわずか17%削減にしかならない。そのリスクは多岐に渡る。低い目標は、日本が既に掲げている80%削減という長期目標の助けとならない上、21世紀の低炭素な未来への競争の中で日本を片隅へと押しやる可能性がある。また、日本の野心低下は、国際気候交渉の重要な時期にあって、多国間主義に対する日本のコミットメントに関して他国に誤ったシグナルを送ることになりかねない。…

出典:OPINION: Japan’s historic climate leadership appears in doubt, By John Prescott, TOKYO (April 29, 2015)

クライメート・インスティテュート

オーストラリアの独立研究組織。

あまり楽観的とはいえないのは、日本が発表した2020年以降の、2013年比で2030年までに26%削減(2005年比25.4%削減)という目標案だ。この目標案は、真剣な国際的行動やクリーン技術投資において、日本を脇に追いやるものになるだろう。

出典:May international policy update: State governments step up, while Japan puts low carbon future at risk (May 5 2015)

海外メディア

ガーディアン(ロイター配信)

…日本は世界で5番目の二酸化炭素排出国であり、福島の事故以来記録的な量のガスと石炭を燃料として利用したので、これまで排出削減目標が骨抜きになってきた。他の国が1990年から行っている排出削減努力を全て無視することになるので、2013年を基準年として取り上げることは衡平ではない。日本は国際社会から非難されるだろう。それは低い目標を設定したからだけではなく、日本企業が国内石炭火力発電を建設する一連の計画をしているからだ。…

出典:Japan outlines 2030 carbon target ahead of Paris climate summit (April 30, 2015)

 

国内NGO・研究機関

WWFジャパン

WWFジャパンは、この目標では、「地球の平均気温上昇を2度未満に抑える」という国際的な目標に、日本としての責任と能力を踏まえた十分な貢献をするには圧倒的に足りないと考える。再エネ・省エネの可能性を徹底的に見直し、少なくとも30%以上の削減目標にするべきである。…低炭素社会へ向けての変革を後回しにすれば、日本の取り組みは、深刻な遅れに見舞われる。このことを私たちは深く憂慮する。

出典:声明「日本の約束草案:誰のための目標なのか?既得益に固執する産業のための目標案なのか?これでは温暖化を緩和する”削減”目標とは言えない」(2015年4月30日)

気候ネットワーク

COP21での合意に向けて、今回示されたような数値目標は、世界の要請を全く無視した数字といえます。また、「2013年比で2030年26%削減」は、カンクン合意で示された「地球平均気温上昇2℃未満」の目標の達成に向けた経路としても不十分であり、かつて閣議決定した長期目標「2050年に80%削減」に直線的に結ぶこともできないものです。2030年の排出量を大きく見積もることは、将来世代への負担を残すことになり、決して適切とは言えません。

出典:【プレスリリース】2030年温室効果ガス削減目標:2013年比26%=1990年比18% 野心度・衡平性の観点から極めて不十分(2015年4月30日)

 

国内メディアのリアクション

毎日新聞

政府は、2030年の温室効果ガス排出量を現状に比べ20%台半ばまで減らす新目標を掲げる方向で最終調整に入ったという。京都議定書の基準年の1990年比に換算すると削減率は10%台にとどまり、目標を公表済みの先進各国と比べると物足りない。これでは、閣議決定している50年に80%削減という長期目標の達成もおぼつかない。…原発事故を言い訳に、日本が温暖化対策に消極的姿勢を続けることは、もはやできない状況にある。

出典:毎日新聞社説(2015年4月21日)

河北新報

地球温暖化対策の要、日本の温室効果ガス排出削減目標がようやく固まった。…なかなか決まらなかった経緯からは、温暖化対策に取り組む国としての本気度が心配になってくる。…環境省の試算では、30年に再生エネの割合を35%とすることが可能だという。過酷な原発事故を経験しながら、従来の思考のまま原子力比率にとらわれていれば、世界の潮流から取り残されかねない。新しい発想での積極的な削減策が求められる。

出典:河北新報(2015年4月30日)

日本経済新聞

26%は地球温暖化の抑止に向けた日本の国際貢献という側面では必ずしも十分とはいえない。…日本は世界3位の経済大国であり、温暖化ガス排出でも5位だ。相応の責任があることに変わりはない。…今後、目標を正式に決めて具体的な国内対策をたてるにあたり、国民的な議論をもう一段、深めるべきだろう。

出典:日本経済新聞社説(2015年5月2日)

朝日新聞

地球温暖化に立ち向かう意欲に欠けているというほかない。政府が新たにまとめた温室効果ガスの削減目標案である。…実質的に国際水準に劣るのに、基準年を最近の年へずらしたため、そう遜色がないようにも見える。そんな姑息なやり方で近年の無策をごまかしては、国際社会の信頼を失うだけだ。真剣に考え直すべきである。

出典:朝日新聞社説(2015年5月4日)

愛媛新聞

地球温暖化防止への本気度を国際社会から疑われよう。 …安倍晋三首相は来月の先進7カ国(G7)首脳会議で表明する方針だが、世界5位の大排出国である日本の消極姿勢は、他国の削減意欲に水を差す。政府は世界の温暖化対策をリードし得る目標を、設定し直してもらいたい。…今後も電力需要が伸び続けるとの経産省の想定は看過できない。透ける原発温存の思惑は、多くの国民の思いに反する。温暖化対策と脱原発を両立させるためにも、省エネの一層の推進や再生エネをめぐる新たな産業の育成支援などへ、エネルギー政策の抜本的な転換を急ぎたい。

出典:愛媛新聞社説(2015年5月8日)

高知新聞

日本政府は先月末、「2030年度までに13年度に比べ26%減らす」目標を事実上決定した。ただこの目標では「50年に80%減」の国際合意にも届かない。…政府目標は原発を「20~22%」再生可能エネルギーを「22~24%」などと電源構成を示した。原発はCO2を排出しないが、東京電力福島第1原発事故を経験した国民の多くは、再稼働に反対している。また石炭火力をほぼ現状と同じ「26%程度」としたのは、温暖化対策の面では逆行している。…温暖化が危険水準に入ったことを重く受け止め、日本も大きくかじを切るべきだ。

出典:高知新聞社説(2015年5月8日)

佐賀新聞

政府は、温室効果ガスに対する削減目標を「2030年度までに13年度に比べ26%減らす」とすることを事実上決めた。「先進国で50年までに80%削減する」との国際合意のレベルには到底及ばない。これでは世界5位の二酸化炭素(CO2)排出国としての責務を果たせるとは言えず、国際社会からも理解は得られまい。

出典:佐賀新聞論説(2015年5月13日)

(以下、随時更新)