プレスリリース
日本の新しい気候・エネルギー目標は、
パリ協定の目標達成に必要とされる水準には遠く及ばない
2025年2月19日
Climate Action Network Japan(CAN-Japan)
2025年2月18日、日本政府は、今後の日本の気候変動対策を方向づける「地球温暖化対策計画」「第7次エネルギー基本計画」「GX2040ビジョン」を閣議決定し、次期NDC(国が決定する貢献)を提出した。しかし、これら3つの政策は不十分かつ非野心的であり、パリ協定が掲げる世界目標の達成を脅かす。
各国が国連に提出する次期NDC(国が決定する貢献)は、第1回グローバル・ストックテイク(COP28)の成果を取り入れたものとすることが求められているが、日本が示した2035年の排出削減目標は、産業革命前と比べて世界の平均気温上昇を1.5℃未満に抑えるために必要とされる数値目標には到底届かない。国際環境シンクタンク、Climate Action Tracker(CAT)は、日本が1.5℃目標に整合する排出削減経路をとるためには、2013年比で少なくとも79-81%の削減が必要であると分析しているが、今回示された2035年の排出削減目標は60%と全く不十分なものであり、同じG7メンバーであるイギリスの1.5度目標に整合した2035年目標とは対極をなしている。
2023年のCOP28で日本政府は化石燃料からの脱却に合意しており、G7の一員として石炭火力のフェーズアウトや2035年までの電力セクターの大部分を脱炭素化することを約束した。しかし、2040年のエネルギー需給見通しで示された電源構成は、石炭を含む火力を30-40%を残すこととしている。さらに、再生可能エネルギーについては、40-50%程度であり、2030年の電源構成目標の36-38%よりわずか2-14%の拡大に留まる。
日本政府は、今回閣議決定された3つの政策を含むエネルギー戦略のもと、火力への水素・アンモニア混焼および二酸化炭素回収・貯留(CCS)といった、実用化されていない技術に数多くのインセンティブや補助金をつぎ込み、火力発電所の延命を支えている。さらに、アジアゼロエミッション共同体(AZEC)を通じて多くの国々に化石燃料関連の技術を推し進めており、途上国の脱炭素化を遅らせ、公正な移行を阻み、パリ協定の1.5℃目標を脅かしている。
昨年は観測史上最も暑い一年となり、世界中で前例のない気候災害が発生した。その傾向は2025年も続いている。世界は気候変動対策の「勝負の10年」の折り返しを迎えており、日本はパリ協定の目標達成に向けた責任と役割を果たさなければならない。1.5℃目標に整合する経路に沿った気候変動対策、すなわち、野心的で科学に基づいた2035年の排出削減目標を発表し、化石燃料からの脱却を加速し、再生可能エネルギーを拡大していくことが求められる。
参考
日本のNDC(国が決定する貢献)(令和7年2月18日提出)
https://www.env.go.jp/content/000291804.pdf
CAN-Japanメンバー団体からのコメント
伊与田昌慶(国際環境NGO 350.org Japan):
「京都議定書の発効20周年を迎えた直後、石破首相は、気候の危機にさらされている世界で、日本の気候変動に対するリーダーシップを示す貴重な機会を逃しました。科学者たちは、パリ協定1.5℃目標のために日本は「2035年までに81%削減」が必要と勧告し、市民もそう求めてきました。しかし、石破首相は、市民の声を聞くのではなく、化石燃料の利権を持つ産業界からの圧力に屈したのです。これは、日本が公平で公正な再生可能エネルギーの未来に移行しなければならない中、大きな失敗です。新しい気候・エネルギー政策は、化石ガスを重用し、原子力、アンモニア・石炭混焼発電、炭素回収貯留(CCS)といった誤った解決策を日本の気候変動対策の中心に据えています。これは、再生可能エネルギーと省エネルギーによる日本の真のグリーン成長を危うくするものです。しかし、気候正義を求める闘いは終わっていません。気候危機がいかに自分たちの健康、生活、そして将来の世代を脅かしているかを、人々はますます認識するようになっています。子どもたちの未来を守るため、市民は政府に気候変動政策の強化を求め続けるでしょう」
鈴木かずえ(国際環境NGOグリーンピース・ジャパン):
「今回閣議決定された計画の、低すぎる再エネ目標や石炭火力に依存し続ける方針、原発回帰や無責任な温室効果ガス削減目標に強く異議を唱えます。1.5度目標に整合させるためには、2040年の電源構成で最低でも72%以上の再エネ比率の設定が必要であり、現在の技術と適切な政策介入により十分に実現可能です。原発についても、地震対策や使用済み核燃料の処理、設備の老朽化など多くの課題を抱えているにも関わらず、東京電力福島第一原発事故からわずか14年で原発推進へ方針転換する姿勢を容認することはできません。また1.5度目標を達成するための炭素予算の観点から、また工業先進国としての責任から、2035年度の温室効果ガス削減目標は、目標に整合する78%削減を目指すべきです。また計画の審議プロセスについても、アカウンタビリティーの強化、パブリックコメントの反映、原発の近くに住む住民の声など、多様な国民の声が真に反映されるシステムによって、エネルギー政策を決定すべきです」
クライメート・リアリティ・プロジェクト・ジャパン:
「今回の閣議決定で示された政府の気候政策の指標は、1.5℃目標と整合しておらず、日本がこれまで大量の温室効果ガスを排出し、依然として化石燃料への最大級の資金提供国であるという責任を果たせません。私たちは、日本が国際的な責任を果たし、世界中の人々の持続可能な未来を実現するために、より野心的な温室効果ガス削減目標と、化石燃料の廃止を明確にした具体的な実行計画の策定を求めます。2035年までに日本がCO2排出量を81%削減するためには、省エネ対策の強化に加え、効率の低い火力発電の廃止、すべての石炭火力の撤廃、再生可能エネルギーの割合を80%に拡大することが不可欠です。また、私たちは多様な業界や組織に属する人々のコミュニティとして、気候政策の策定にあたり市民の声を反映させる透明性のあるプロセスの確立・強化を強く求めます」
FoE Japan:
「原発や火力などの大規模集中型の電源による電力の大量生産・大量消費の構造をそのまま維持する内容である。気候危機に向き合わず、一般市民や将来世代に大きな負担を強い、現実からも乖離している。私たちはこれに抗議する」
声明:第7次エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画、GX2040ビジョンの閣議決定に抗議ー原発回帰・電力の大量消費構造維持の内容で、気候も未来も守れない | 国際環境NGO FoE Japan
浅岡美恵(気候ネットワーク):
「今回の閣議決定で示された政府の気候・エネルギー政策は、「脱炭素」とは名ばかりで、原発・石炭火力維持温存の従来のシステムから何ら脱却できず、大幅削減にも程遠い計画となりました。国連に提出する国別削減目標(NDC)で示された2035年の目標は、2013年比60%削減(2019年比54%程度の削減)で、IPCCが示した1.5℃目標に必要な経路である2019年比60%削減(2013年比にすると約66%削減)からみてもかなり甘い目標にとどめています。また、これを議論した審議会では政府案の低い目標に対する反論が多数出るとともに、パブコメ後にも会議を再開するよう求める声が上がっていましたが、そうした意見を黙殺し、審議しないまま今回の決定に至りました。気候ネットワークは今回の閣議決定に明確に反対し、国会での徹底論戦、市民参加の新たなプロセスを構築し、持続可能な気候変動政策、エネルギー政策が決定される社会を望みます」
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