プレスリリース

G7プーリアサミットを受けて
ーー1.5度目標の実現に向け、化石燃料からの脱却を急げーー

2024年6月17日
Climate Action Network Japan(CAN-Japan)

 
 イタリア南部で開催されていたG7プーリア・サミット(主要7ケ国首脳会議)は6月14日、2日間にわたる会議を終え、成果文書となるコミュニケを採択した。

 世界の共通目標である「1.5℃目標」は、深刻な危機に直面している。

 6月4日、国際エネルギー機関(IEA)は、1.5度目標を達成するため2030年までに再生可能エネルギーを3倍にする目標の実現が、このままでは困難だとする分析を発表。翌5日には、世界気象機関(WMO)が、今後5年間に、世界の年間平均気温が1.5度を上回る確率が80%に高まったと警告した。これを受けたグテーレス国連事務総長は、すべての国に対して化石燃料企業の広告を禁止するよう求めた。

 しかし、世界の脱炭素化を牽引すべきG7首脳は、この緊急性と重大性に向き合わず、首脳会合に先立って4月にトリノで開催された気候・エネルギー・環境大臣会合をはじめとする過去のコミュニケをくりかえすにとどまった。

 今回の首脳会議は、議長国のイタリアでアフリカ諸国からの「気候難民」が急増していることを背景に、気候難民が主要な議題として取り上げられた。

 コミュニケが「気候変動はリスク増幅器である」と記したように、気候変動による災害、不作、社会不安などによって移住を余儀なくされる気候難民は、気候変動が引き起こす数多くの問題のひとつにすぎない。サミットが議題に掲げた食料安全保障、健康など多くの課題は気候変動によりそのリスクが高まっていることが指摘されている。G7には、別々であるかのように見える問題の数々を包括的にとらえ、気候危機への取り組みを通して、派生する諸問題の同時解決をめざすことが求められている。

 最大の解決策のひとつは、11月に開催されるCOP29の主要議題となる「新規合同数値目標(NCQG)」、1.5度目標を達成するために先進国が途上国に拠出する新たな資金目標である。しかし、G7は「この問題をリードする」と謳いながら、具体的な数値目標も拠出額も示さないまま会期を終えた。

 1.5度目標を堅持するためには、昨年末にCOP28で合意した「化石燃料からの脱却」が不可欠である。「排出削減対策が講じられている」か否かにかかわらず、すべての石炭火力発電所を、G7が合意した2030年代前半より早い2030年までに廃止することが求められる。

 G7の中で唯一石炭火力の廃止計画を持たず、1.5度目標に整合しない低い削減目標を掲げる日本は、今こそ科学の要請と国際合意を真摯に受け止め、省エネルギーと再生可能エネルギーの推進による気候危機の根本的な解決に向けて政策を転換すべきである。

 

CAN-Japanメンバー団体からのコメント

小池宏隆(国際環境NGO グリーンピース・ジャパン シニア政策渉外担当):
「気候危機がまさしく社会基盤を揺るがす中、対策を急速に進めるためには、COP29にて野心的な国際気候資金目標に合意し、同時に緩和で成果をあげる必要があります。しかし直前に行われた国連気候変動枠条約(UNFCCC)第60回補助機関会合(SB60)では、中身のある進展はありませんでした。G7は首脳級が明確なシグナルをだす機会でしたが、残念ながらそのような言及はありませんでした。債務や損失と被害に苦しむ途上国には、十分な財務支援が必要で、それなしに緩和の野心を引き上げることは困難です。先進国でも税務上の制限が厳しい中、実施すべきは、汚染者負担の原則です。このエネルギー危機を通じて莫大な利益を上げた化石燃料関連会社や富裕層に彼らが負うべき負担を負わせ、十分な税収を確保し、公的資金としてグローバスサウスへ必要な資金を拠出することが求められます。また、気温上昇を1.5℃未満にとどめるためには、石炭を段階的に廃止するというG7の計画は、全く不十分です。COP28で合意されたエネルギーパッケージを着実に遂行し、世界ではなく、G7各国で2030までに再エネ3倍、省エネ2倍の目標を達成することを求めます

吉川景喬(WWFジャパン 自然保護室気候・エネルギーグループ):
「COP29に向けて、新しい気候資金目標に道筋をつけるような宣言が出なかったのは残念です。また、4月の気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケに続き、首脳宣言でも石炭火発の廃止年限として2030年代前半という時期が示されたのは一歩前進ですが、2030年までとするべきであったほか抜け道を認めるなど不十分な点も残ります。日本としては、COP28でのコミットメントや今回のG7コミュニケの内容を、着実に次期NDCや第7次エネルギー基本計画に盛り込むべきです。2035年までに2019年比で温室効果ガス排出量60%以上の削減、国内で2030年までに再エネ3倍と石炭火発の段階的廃止の実現、カーボンプライシング等の実効性ある政策の導入が必要です。」

伊与田昌慶(国際環境NGO 350.org Japan キャンペーナー):
「G7広島サミットでの気候危機に対するリーダーシップの欠如から1年、岸田首相は今年も名誉挽回に失敗しました。プーリアサミットにおいて、岸田首相は、アフリカにおける気候災害の深刻さに言及したと伝えられています。しかし、岸田首相は、アフリカ・モザンビークにおける化石燃料LNG事業を支援すると約束した張本人であり、むしろアフリカの気候危機の悪化に加担する側にいます。いまだに海外の化石燃料関連事業を支援していること、融資による重い債務負担を課すこと、日本企業との契約を求めるといった搾取的な慣行があることで、日本の国際的な資金支援は悪名高い状況が続いています。今こそ日本は、公正で、安全で、安価な再生可能エネルギーと省エネルギーに全面的な財政支援を振り向けるべき時です。ガスを含む化石燃料事業や、石炭火力発電へのアンモニア混焼などのグリーンウォッシュ技術に資金を提供してはなりません。岸田首相は、日本の気候資金への貢献のあり方を改め、新たな気候資金へのコミットメントを急いで準備する必要があります。また、新たなエネルギー基本計画で脱石炭と脱ガスへの道筋を明らかにするために、化石燃料と原発への依存を改め、公正な再エネを3倍にすることにこそ指導力を発揮せねばなりません。」

冨田沓子(国際気候NGO スティールウォッチ キャンペーン・ディレクター):
「今回のG7首脳会議での合意は、気候の安定化のために不十分と言わざるを得ません。
排出量を1.5℃目標に整合させるには産業の脱炭素化が急務であり、G7には一層のリーダーシップが求められます。世界の年間温室効果ガス排出量の7%、日本の製造業のCO2排出のうち約3割を占める鉄鋼部門の脱炭素化が不可欠です。
IEA国際エネルギー機関はG7に対し「ニア・ゼロ・エミッション鉄鋼 」の定義を提起しており、日本政府はそれに沿った産業転換を促す補助金制度を導入すべきです。また費用が高い一方で、削減効果が低く水素の持つ排出削減可能性を十分に生かすことなく、石炭を原料とする製鉄を長引かせる高炉への水素注入技術への公的資金投入は、直ちに中止するべきです。」

浅岡美恵(気候ネットワーク 代表):
「気候危機が世界各地で深刻化するなか、より野心的なG7合意が期待されましたが、4月の環境大臣コミュニケを繰り返すにとどまりました。気候危機を食い止め、1.5度目標を達成するためには、気候変動の被害を受ける国々やコミュニティへの支援を強化し、G7自らが化石燃料からの脱却を率先して達成していくことが急務です。「2030年代前半までの石炭火力の段階的廃止」の合意は、OECD諸国に求められる2030年の石炭火力廃止には遅いですが、G7で唯一石炭火力廃止の期限を明示していない日本に対し、世界からより厳しい目が向けられるでしょう。第7次エネルギー基本計画の議論では、気候の科学と国際合意に真摯に向き合い、省エネ・再エネの拡大および化石燃料廃止のロードマップを徹底的に議論することが求められます。」

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