日本の約束草案(政府原案)に対しての声明
野心度・衡平性の観点から極めて不十分
2015年6月2日
認定NPO法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵
本日、首相官邸の下に設置された「地球温暖化対策推進本部」にて、日本の約束草案(要綱及び政府原案)がまとめられました。その内容は、温室効果ガス削減目標の基準年を「欧米に遜色ない目標」と見せかける2013年度とし、実質的には削減目標値が1990年比で約18%程度の削減という4月30日の審議会でとりまとめられた内容をそのまま政府として容認した内容となりました。
政府は、将来起こりうる気候変動の甚大な悪影響を考慮することなく、世界第5位の大規模排出国としての責任を全く果たす意思の感じられない、極めて不十分な内容であるにも関わらず、日本の排出量は(1)GDP当たりの温室効果ガス排出量」(2)人口一人当たりの排出量、(3)我が国全体のエネルギー効率が「既に先進国で最高水準」と評価し、「限界費用」の指標のみで「公平性」が確保されているなどと記載しています。また、この政府案が「2℃目標達成のための2050年までの長期的な温室効果ガス排出削減に向けた排出経路や、我が国が掲げる『2050年世界半減、先進国全体80%減』との目標に整合的なものである」などと記載していますが、これらは全く根拠不明です。気候変動対策の強化に向かう世界の大潮流もふまえず、危機的な気候変動の状況を直視することのない極めて内向きなこうした内容は、国際社会にも大きな失望を与えるものだと指摘せざるを得ません。
衡平かつ野心的な削減目標を示すことが国際社会の中での日本の責務
不十分な削減目標:日本の目標は最低でも2030年に90年比40%とすべき
- 地球の平均気温上昇を産業革命前から「2℃未満」に抑えるという人類共通の目標を達成するために残された炭素予算(カーボン・バジェット)はあとわずかである。大幅削減のために、各国に野心的な削減目標が求められているが日本政府案は「2℃未満」実現への道筋に沿うものではなく極めて不十分である。
- 衡平性について、環境NGOのネットワークであるCAN-Japanが削減目標に関する提案でもまとめているとおり、「妥当性(adequacy)」「責任(responsibility)」「能力(capability)」「発展のニーズ(development need)」「適応(および損失と被害)のニーズ」といった多様な指標を考慮すれば、日本にとって衡平性の観点から必要な排出量削減は、1990年比で、2025 年までに約30〜40%削減、2030年までに約30〜60%削減ということになり、約18%程度の削減目標は極めて不十分である。
- 日本ですでに閣議決定している2050年に80%削減への経路としても40%程度の削減にしなければ、将来、厳しい削減が必要となり、将来世代に大きな負担と過酷な環境を残すことになる。
エネルギーミックスでは大胆な省エネ、再エネの大幅拡大、脱石炭を明確に打ち出し 原子力発電にも依存しない気候変動対策を打ち出すべき
- 気候変動対策と表裏一体の関係にあるエネルギーミックスの議論では、2030年の電源構成は原発20~22%、再エネ22~24%、石炭26%、LNG27%、石油3%とする方向性が示されている。原発・化石燃料依存の構造を変えないことが気候変動対策にとっても足かせになっている。
- 原発依存からの脱却は国民の意思である。また、原発への過度な依存が温室効果ガス削減に実効性ある政策導入を妨害し、温室効果ガス排出増加を招いてきた。原発依存から脱却し、ベースロード電源などという旧来型の電力システムをあらため、再生可能エネルギーを中心とした電力構造へと大転換することが大幅な温室効果ガス削減の実行にもつながる。
- 6月3日から7月2日まで実施されるパブリックコメントで市民の意見を反映させ、こうした点をふまえた削減目標へと修正するよう求める。
参照
【プレスリリース】「2013年比20%削減」=「1990年比で約10%削減」”温暖化対策の放棄”を世界に発信?基準年ずらしの見せかけのかさ上げは、国際的信頼を失うだけ(2014/4/10)
【プレスリリース】意欲のない温室効果ガス削減目標は受け入れられない 原発ゼロで温暖化対策の深掘りをすべき(2015/4/24)
【プレスリリース】2030年温室効果ガス削減目標:2013年26%=1990年比18% 野心度・衡平性の観点から極めて不十分 (2015/4/30)
【CAN-Japanプレスリリース】 新しい日本の気候目標への提言(2015/3/20)
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【プレスリリース】日本の約束草案(政府原案)に対しての声明 野心度・衡平性の観点から極めて不十分(2015年6月2日)
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